※以下の文章は、平気でネタバレしています。ドラマを未見のかたはご注意ください。
U-NEXTを利用して、少し前から気になっていたドラマを一気見しました。
韓流ファンの間では名作の誉れ高い『トッケビ〜君がくれた愛しい日々〜』。
上の画像は、韓国tvNの『トッケビ』公式ホームページの画像ですが、はっきり言ってこの画像からは想像もできないすごいドラマ。
tvNは2006年に開局されたケーブルTV局なのですが、地上波とは違うスタンスで制作ができるからなのか、それとも韓国エンタメ界にはもともとこういうドラマを作れる地力があるのか、日本のドラマではまずお目にかかれない、詩的でファンタジック、壮大で哀切な愛と宿命の人間絵巻、コミカルでシリアスな時代劇にして現代劇という、とてもユニークな物語を堪能させてもらいました。
物語のあらすじは――、
1000年近くも昔の高麗時代、時の王から謀反のとがを受けた武将キム・シン(コン・ユ)は死んでも死にきれず、彼の命を奪うべく胸に突き刺された剣もそのままに、悠久の年月を“トッケビ(朝鮮半島に伝わる精霊や妖怪のこと)”として生き続けている。
そんな彼の命を奪えるのは“トッケビの花嫁”ただ一人。彼女だけがトッケビの胸から剣を抜き、彼を不死の地獄から救うことができるのだった。
そして時は現代。
幽霊とも平気で話のできる超霊感の強い女子高生チ・ウンタク(キム・ゴウン)とトッケビが遭遇し、どうやら彼女こそがトッケビの花嫁らしいということに。
トッケビは、いよいよ自分は死ぬことができると興奮し、親子ほども年齢の違うウンタクとの愛の日々を本格化させようとするが……。
といった感じでしょうか。
2016年のドラマですし、日本でもすでに多くの韓流ファンが物語を追い、とっくにいろいろと体験済みのファンタジーだとは思います。なのでここでは、ごくごく私的な、どこまでも私個人の心を揺さぶった物事に特化して鑑賞記をものしてみたいと思いますが――、
死神最高
とにかくこの一言に尽きる物語だと私は思います。
このドラマをご覧になっていないかたは、何が何だか分からない感想ですよね。でも私と同様、最終回までこのユニークなラブファンタジーを追いかけ終えたかたであれば、かなり多くのみなさんが、
「だよね~~♪」
と同調してくださるのではないかと思います。
死神を演じたのは、上の画像の一番左端にいるイケメン俳優のイ・ドンウク。
このドラマは、もちろん主役のトッケビ(コン・ユ)とその花嫁である可愛い女子高生ウンタク(キム・ゴウン)のせつない愛の物語でもあるのですが、「前世で大罪を犯した」という理由から死ぬこともできずに死役所みたいな仕事をさせられている死神と、死にたくても死ねないトッケビとの男同士の友情と、その思わぬ破綻、そしてそこからの再生のドラマでもあるのです。
※しつこいようですが、ここからかなりネタバレします。ご注意ください。
まあ、はっきり言ってしまうと、死神の前世は、トッケビを殺した時の王その人だったわけです。
しかもその王様のもとに、武将キム・シン=トッケビは自分の可愛い妹(若手女優キム・ソヒョン好演!)も嫁がせていたのですが、王様は坊主憎けりゃ袈裟まで憎いとばかりに何の罪もない自分の妻までその手にかけており、王を恨み、憎悪するトッケビの胸の内は1000年近く経った今でも尋常ではないわけです。
そんな二人が、片や死神、片や死にたくても死ねないまま長い時を生き抜いてきたトッケビとなって対峙します。
前世の記憶は何にひとつ持たないまま自分の仕事をまっとうし続けてきてた死神は、自分が前世でしでかしてしまった罪の重さを知るに至り、激しく苦悩しながらも、死神としての現在の日々を生き続けようとします。
そして、まさか彼こそが恨み骨髄な相手だなどとは夢にも思わないまま死神との友情を育み続けてきたトッケビは、それまで培ってきた友情をバッサリと反故にし、死に神を憎んで憎んで忌み嫌い、死神と激突していきます……。
私、正直最初の7話ぐらいまでは「なんかつまんない話だなぁ……」と生あくびを噛み殺しながら視聴していました。
トッケビと死神の2人が繰り広げるユーモラスで可愛い(かも知れない)シーンの数々も、私が男のせいかちっともつぼにはまらず、なかなか進展していかないように思える話に、ただただいらいらとし続けていました。
ところが、この物語は全体の半分を過ぎたぐらいから異常な面白さを見せ始めます。
トッケビとヒロインのウンタクとの物語も、死神とのエピソードも、まさに思いもよらないエスカレートぶりを示すようになり、物語の後半からは、物語の続きを追うことがもどかしくなるぐらいドラマの先を知りたくなる気持ちが尻上がりに高まります。
びっくりしたのは、あと3話を残したところで、トッケビの胸に刺さっていた剣が抜けてしまったことですね。
私はてっきり、あれやこれやといろいろあったのち、トッケビの花嫁がトッケビの胸から剣を抜いて、涙涙で大団円なんだろうと勝手に思っていただけに、「こんなところで剣が抜けちゃってどうするんだろう!?」と一人でオロオロしたものでした(笑)。
でも、この物語の白眉は、まさにここからだったんです。
トッケビの胸から剣が抜け、神の采配によってトッケビに関わったすべての人々の脳裏から彼に関する記憶がすべて削除されてしまったところから、この物語はさらに面白さを増していきます。
私が大好きだったシーンがあります。
ここまで死神、死神と騒いでおいて、いきなりウンタクがらみのエピソードで申し訳ないのですが、30歳を目前にした年齢となった10年後のウンタク(トッケビのことはすべて記憶から抹消されています)の前に再び現れたトッケビが、自分の気持ちを抑えきれずに彼女を力いっぱい抱きしめてしまうせつないシーンです。
しつこいようですが、ウンタクは記憶をすべて消されています。ですから、トッケビ(しかも、高麗時代の武将の姿に戻っています)の行為は非常識極まりない、アブナイ変態オヤジ同然の危険なアプローチです。
ところが――。
何一つ記憶などないはずのウンタクは、汗臭く汚い、傷だらけの時代劇オジサン、トッケビに抱きすくめられ、
「ああ……」
と思わず万感の思いで両目を閉じ、彼の抱擁に恍惚の表情を見せるのです。
もちろんウンタクはすぐに我に返り、「わ、私ってば、なにやってんの……!?」とトッケビを突き飛ばし、「なにすんの、この変態!」とばかりに、怒りも露わに彼の前を去ります。
激オコプンプンです。
私、このシーンがとても好きでした。
記憶を消されても心と身体が忘れないウンタクが、トッケビによって魂を震わせられる素敵なシーン。ウンタク役の女優さん、キム・ゴウンがメチャメチャ芝居がうまいせいもありますけど、トッケビに抱かれて思わず知らずせつないため息をついてしまう29歳のウンタクの姿に、それまでのトッケビと彼女の濃密だったエピソードの数々がついつい重なり、ついこちらまで胸を締めつけられる気持ちにさせられたものでした。
名シーン、だと思います。
そんなわけで、死神(イ・ドンウク)にウンタク(キム・ゴウン)、王妃役のキム・ソヒョン(とにかく可憐で素晴らしかったです)など、私としてはなにかと収穫の多かったこのドラマ。
こうした質の高いファンタジーが制作できる韓国ドラマのレベルの高さに改めて脱帽しつつ、何とも哀しく、それでいてもとてもハッピーな“トッケビ”ワールドの不思議な余韻に、しばしどっぷりと浸り続けました。