※映画の内容に言及しています。未見のかたはご注意ください。
話は39年ほど前にさかのぼる。
「とにかくすごいんだよ。あんなアニメ、見たことないよ。自分の目でたしかめてみろよ」
友人にあおられ、とるものもとりあえず、映画館に駆けつけた。
新宿だったと記憶する。
まだシネコンなどというものがない時代だ。
映画館は満員だった。
小さな館内のいちばん後方で、他の観客と押し合いへし合いしながら約2時間、立って見た。
仰天した。
たしかにそれは、見たこともないアニメ映画だった。
これはもうアートだと思った。
それが『風の谷のナウシカ』だった。
今に至るまで、私にとっては『カリオストロの城』と並ぶ宮崎作品のベスト。
ルパンとナウシカ以上のものはない。
それぐらい、感動した。
映画館の暗闇の中、異様な熱気とともに見たナウシカは、今でも私の宝物だ。
時代は変わると思った。
そして、変わった。
あれから39年。
まず「宮崎駿の新作」を映画館で見ることのできた幸せを喜びたい。
これは、同じ時代を生きた人間だけに許された特権だ。
肝心の映画の内容は、
「ミヤさんね、もう好きに作っちゃっていいよ。ミヤさんの好きなように。あとは俺が責任持つからさ」
と鈴木プロデューサーに言われでもしたかのようなアートムービー。
これはもうアートだと、39年前とはまったく別の意味で、私は思いながら見た。
内容は全然違うけれど、フェリーニの『8 1/2』を見ているような気持ちになった。
私は映画にアートは求めない。
結果的に、自分の中でアートになる映画はあるが、映画館の暗闇にもぐりこむのはあくまでも、エンタテインメントという心揺さぶる2時間のジェットコースターを楽しむためである。
そういう意味では、この映画は違う。
でもいろいろな意味で、こんなアニメ映画は宮崎駿にしか作れない。
そして私は、ナウシカから39年後、こんな新作を映画館の暗闇で見ることのできた幸せを、やはり神様に感謝したい。
それにしても、ワラワラかわいかった笑。
青い夜空へとワラワラが次から次へと舞いあがっていく幻想的なシーンに、気づけば私は涙していた。
銀幕に手を突っこみ、一匹連れだして持ち帰りたくなったぐらい笑。
これは、宮崎駿という稀代の天才アニメ作家の「2023年の到達地点」を楽しむ映画。
祝祭の映画。
少なくとも、私にとってはそんな映画でした。
て言うか、あのアオサギ、三木のり平にしか見えなかったんですけど笑。