このところあまり天気がよくないが、つかの間、日が差した。
『埼玉怪談』の取材と執筆の作業が佳境に入ったため、正直あまり時間はないのだが、仏画とあってはしかたがない。
埼玉県熊谷市の国宝・妻沼聖天山境内、香草庵で開催されているチベット仏画師、飯野博昭さんの個展を見に行く。
香草庵は本堂の右隣。上の写真にも、ちらっと入口が見えている。
会場は畳敷きで思いのほか小さかった。
だが小さな会場いっぱいに豪華絢爛な作品が飾られ、思わず目を見張らされる。
私の大好きなガネーシャをはじめ、チベット仏教と関係の深いさまざまな仏様を描いた仏画を中心に、多彩な作品が、まさにところ狭し。
感無量。
作品はどれも絢爛で緻密だった。伸びやかな線はどこまでも美しく、仏画初心者はただただ圧倒される。
会場には飯野さんご本人もいらっしゃった。フレンドリーに、私のような怪しい人間にまで声をかけてくれる。
「とにかく毎日、少しでも筆を持って線を引くこと。あと、筆にもこだわるようにしてください」
どうしたらこんな綺麗な線が描けるようになりますかと恐れ多くも質問をした仏画一年生のじじいに、飯野さんはニコニコと微笑みながらそうアドバイスをくれた。
そうなんだよなあ……毎日、少しずつでも。まずそれを実現できないのに「どうしたら……」などと聞くこと自体がおこがましいと知る。反省。
会場にはターラー菩薩様を描いた素晴らしい作品も展示されていた。
ターラー菩薩様(画像は購入した写真の一部をトリミングしたもの)は日本ではあまり知られていないかも知れないが、チベットでは一番人気の女尊(ちなみに男尊はやはり観音様だそう)。たまたま私が、ずっとターラー様に興味があったため質問をすると、飯野さんはいろいろと教えてくださった。
たとえばターラーはチベット名を「ドルマ」というが、チベットではターラーにあやかり、生まれた女の子にドルマという名前をつける人がとても多いこと。
また会場には、上でご紹介したホワイトターラー(顔の三ツ目に加え、両手のひら、両足の裏にも目を持ち、全部で「七ツ目」。これらの目で漏れなく見落としがないよう、衆生を救済する)とともに、グリーンターラーも並んで飾られ、こちらもホワイトターラー以上に豪華絢爛な色使いで、ただただ、私を圧倒した。
チベットの軸(掛け軸)についても、いろいろと聞いた。
軸内に聖域への入口と見立てる部分があったり、両親をあらわす部分があったり、ふだんは仏画が見えないようにしておき、いざというときにご開帳となる工夫や「仏画としての正装」であることを示すネクタイがあったりと、聞いてみると掛け軸の各パーツにもいろいろと意味があり、とても楽しい。
久しぶりに心癒やされる贅沢なひとときを満喫。
妻沼聖天山様でガネーシャ三昧というのも、なんというご縁か。(聖天様=ガネーシャ、というわけではないが、関係はある。また上に書いたとおり、私はずっとガネーシャ好きで、聖天様とは恐れ多くもご縁を頂戴している。もっと精進しなければ、太くならないご縁ではあるが)
個展は明日25日まで。
お近くのかた、ご興味おありのかたはぜひ。